大杉栄ペーパーバック
8|山川均ほか『新編 大杉栄追想』
あの震災から90年、稀代の革命児・大杉栄を悼む
お互いがウンとわがままになればいいんだ
1923年9月――、関東大震災直後、戒厳令下の帝都東京。「主義者暴動」の流言が飛び、実行される陸軍の白色テロ。真相究明を求める大川周明ら左右両翼の思想家たち。社屋を失い、山本実彦社長宅に移した「改造」臨時編集部に、大正一級の言論人、仇討ちを胸に秘める同志らが寄せる、享年38歳の革命児・大杉栄への、胸を打つ鎮魂の書!
- 書 名:大杉栄追想
- 著 者:山川均|賀川豊彦|内田魯庵|有島生馬|堀保子ほか
- 解 説:大杉豊
- 装 丁:豊田卓
- 仕 様:ペーパーバック判(172 × 112 × 12ミリ)184頁
- 番 号:978-4-9905587-9-6
- 初 版:2013年9月16日
- 定 価:952円+税
も く じ
1 大杉君と最後に会うた時/山川均
2 ドン底時代の彼/村木源次郎
3 かたみの灰皿を前に/安成二郎
4 外二名及大杉君の思出/山崎今朝弥
5 無鉄砲、強情/和田久太郎
6 可愛い男大杉栄 悪口云われても悪い気はしない/賀川豊彦
7 飯の喰えない奴/岩佐作太郎
8 小児のような男/堀保子
9 第三者から見た大杉/内田魯庵
10 殺さるる前日の大杉君夫妻/松下芳男
11 印象二三/土岐善麿
12 大杉君の半面/近藤憲二
13 善き人なりし大杉君/馬場孤蝶
14 追憶断片/宮島資夫
15 回 顧/有島生馬
16 一等俳優/久米正雄
解 説/大杉豊
日録と略年譜
著 者 略 歴
山川均 〈やまかわ・ひとし〉1880〜1958年
倉敷市生まれ。明治から昭和にかけての社会主義運動者。第1次共産党結成に参加。のちに労農派を形成して共産党と対抗、労農派マルクス主義の理論的支柱となる。31年以後は専ら評論活動。戦後は社会主義協会を結成し、左派社会党を支援した。
村木源次郎 〈むらき・げんじろう〉1890〜1925年
横浜市生まれ。04年、横浜平民結社(のち曙会)結成に参加。赤旗事件で入獄後、アナキズム運動者に。17年、大杉栄の家に同居、以後も機関誌発行等に助力する。大杉虐殺の翌年、和田久太郎と震災時の戒厳司令官・福田雅太郎の暗殺をはかるが失敗。
安成二郎 〈やすなり・じろう〉1886〜1974年
秋田県阿仁町生まれ。大杉らの『近代思想』編集に参画。生活派短歌の歌人として知られる一方、『実業之世界』編集長、読売新聞婦人部長を務める。平凡社勤務の後『大陸新報』にコラム、社説執筆。晩年、大杉栄の回想録『無政府地獄』を出版。
山崎今朝弥 〈やまざき・けさや〉1877〜1954年
長野県岡谷市生まれ。03年に渡米し幸徳秋水らと知りあう。弁護士となり、社会運動者を支援。社会主義同盟の結成に尽力、自由法曹団の主要活動家で、戦後は顧問に。著書に『弁護士大安売』、『地震憲兵火事巡査』など。
和田久太郎 〈わだ・きゅうたろう〉1893〜1928年
兵庫県明石市生まれ。12歳で大阪に出て、丁稚奉公。上京し、売文社に入社後、アナキズム運動に参加。久板卯之助とともに『労働新聞』を発行。大杉らと『労働運動』刊行に活躍。大杉ら虐殺の復讐に福田雅太郎を狙撃するが失敗。秋田刑務所で縊死。
賀川豊彦 〈かがわ・とよひこ〉1888〜1960年
神戸市生まれ。米国プリンストン大学、同神学校に留学。帰国後、友愛会に参加、関西労働同盟会理事長となり、労働運動に活躍。やがて生活協同組合運動、農民運動に転じ、戦後は社会党結成に参加。著書『死線を越えて』は大正期のベストセラー。
岩佐作太郎 〈いわさ・さくたろう〉1879〜1967年
千葉県長南町生まれ。01年渡米、在米13年の間にアナキズム運動に従事。帰国後、19年に上京し、大杉らの同志集会に参加。「演説会もらい」闘争や農民運動に奮闘。46年、日本アナキスト連盟全国委員長となる。著書に『革命断想』など。
堀保子 〈ほり・やすこ〉1879〜1924年
茨城県下館市生まれ。堺利彦の先妻・美知子の妹。06年に結婚して以来、大杉を支えたが、16年3月に別居、12月、正式に離婚した。大杉の死の翌年3月、あとを追うように病没。
内田魯庵 〈うちだ・ろあん〉1868〜1929年
東京都台東区生まれ。小説家デビューののち、『罪と罰』などの翻訳も刊行、評論家としても活躍する。01年、丸善書籍部門の顧問になり、同社のPR誌『學鐙』の編集に晩年まで携わる。『思い出す人々』(岩波文庫)に「最後の大杉」収載。
松下芳男 〈まつした・よしお〉1892〜1983年
新潟県新発田市生まれ。陸軍士官学校を卒業し、弘前連隊で中尉のとき、社会主義思想を抱いていると停職処分を受け退役。のち軍事評論家に。戦後は工学院大学教授となる。著書に『三代反戦運動史』ほか軍制史関係多数。
土岐善麿 〈とき・ぜんまろ〉1885〜1980年
東京都台東区生まれ。早稲田大学で回覧雑誌『北斗』同人となり短歌に精進、石川啄木と交友。大杉と知り、『近代思想』に寄稿する一方、雑誌『生活と芸術』を刊行。読売新聞社会部長から、朝日新聞に転じ、40年に退社。戦後、再び作歌に励み、早大教授、国語審議会会長。
近藤憲二 〈こんどう・けんじ〉1895〜1969年
兵庫県市島町生まれ。早大在学中、大杉らの平民講演会に参加、のち売文社に入社。3次にわたる『労働運動』刊行に尽力。大杉死後も第4次『労働運動』を発行するなどアナキズム運動を継続。『大杉栄全集』を安成とともに編纂。戦後、アナキスト連盟の書記長に就任。
馬場孤蝶 〈ばば・こちょう〉1869〜1940年
高知市生まれ。『文学界』同人として創作を始め、翻訳や「閨秀文学会」などにも活躍。慶大教授となり英文学を教える。大杉らの『近代思想』小集に正客として出席、運動に理解を示す。著作家協会など著作家の権利擁護にも努力。文芸評論や随筆集など著書が多数ある。
宮島資夫 〈みやじま・すけお〉1886〜1951年
東京都新宿区生まれ。10代のうち、種々の職業を転々としたが、14年、露店で買った『近代思想』から大杉らの同志例会に参加、アナキズム思想に共鳴する。16年、大正労働文学の佳作『坑夫』を刊行。葉山日蔭茶屋事件を機に大杉らから離反。のち文学からも離れて仏門に入る。
有島生馬 〈ありしま・いくま〉1882〜1974年
横浜市生まれ。洋行5年の間に伊・仏で美術を学び、セザンヌに傾倒する。帰国後『白樺』の同人となり、創作集『蝙蝠の如く』などを発表。14年、二科会を創立。大正期後半から次第に画業に専念。64年、文化功労者になる。兄の有島武郎、弟・里見弴も大杉と交際がある。
久米正雄 〈くめ・まさお〉1891〜1952年
長野県上田市生まれ。一高で同期の芥川龍之介、菊池寛らと第3・4次『新思潮』を発刊。夏目漱石の長女・筆子への失恋体験をもとに作品を多く発表し、人気作家に。新聞小説も「蛍草」ほか多作で、通俗小説の大家となる。戦中は文学報国会の事務局長。戦後、文芸雑誌『人間』を創刊。
※出生地はいずれも現在の行政区名
書 評
強情、快活、傲慢、率直、勇気、親切、温和、貴族的、大胆、愛嬌……それぞれの視点から多種多様な表現で語られる大杉像。そこからきわめて人間的で魅力あるひとりの青年の素顔が浮き彫りになる。
――出版業界紙「新文化」
大杉がいかに愛されていたかがよくわかる
――「ウラゲツ☆ブログ」
大杉栄を多面的に理解するのに、これ以上の本はそうそう出てくるものじゃない
――朝日山([本]のメルマガ発行人)
新潟県で幼少時代を過ごした大杉栄。彼のさまざまな側面が垣間見えて面白い。大正時代の人の文章はとても平易で、なんて読みやすいんだろう
――星龍雄(「新潟日報」論説編集委員)
関 連 情 報
2013年
- 9月15日、16日 「大杉栄メモリアル2013」@新潟県新発田市
- 9月16日 大杉豊氏講演会@静岡市
本書からの抜粋
- 大杉君ほど遠目に見ている者からは怖がられ、近づいた人から親しまれた人はない。大杉君には、強い性格のどこかに、大きな魅力があった。そしてひとたびこの力に触れた人びとは、時には大杉君に不平や不満を言いつつも、結局は大杉君を離れまいとした。(山川均)
- 大杉君の力強い性格は、おのずとその周囲に、よし少数ではあっても、大杉君の人物に傾倒する全心的なディサイプルスの一団を造らせた。地球がその雰囲気に包まれているように、大杉君はいつでもその周囲に、大杉君自身のような、自分自身の雰囲気を造ってそれに取り巻かれていた。(山川均)
- しかし、さすがに大杉は大杉でした。産婦の布団の裾に潜りこんでフカシ芋で腹を満たしながら、もう、その時、後に出した『文明批評』という雑誌発行の計画を起てていました。(村木源次郎)
- 「なに、失敗だと? 馬鹿な奴らだな。俺たちがどんなに大きな収穫をしたか、腕組みしていてどうして知れるんだッ」/無鉄砲の失敗を笑う輩に対しては、こう豪語しながら、せっせと彼は次の計画を進めていった。(和田久太郎)
- 「なあに、駄目なことがあるものか、やってみろ、力かぎり押し通してみろ、きっとやれるものだから——。物事は半分どこまでの見込みがつけばそれで充分だ。二、三分の見込みさえあれば半ばどころまではやり通せるものだ。やってみろ! ぶつかってみろ!」/これが大杉君のやり方だった。その哲学だった。(和田久太郎)
- 「本に読まれちゃ駄目だよ。厚い本だって肝心なところはほんの滴ほどだ。その滴だけをしぼり出して飲んで自分の滋養に役立たせばいいんだ」/以前、こんなこともよく言ってくれた。(和田久太郎)
- 「お互いがウンとわがままになればいいんだ。そして、そのうえでお互いが腹の底をぶちまけて自由に話し合えば、真当に正しい理解をみんなが持つようになるんだ。そこから自由で愉快な社会が出来あがるんだ」/これが大杉君の持論だった。(和田久太郎)
- その時だった。「大杉君、君の学説は何というて定義すればよいのだね?」と私の質問したことのあったのは。/それに対する大杉君の答は簡単であった。曰く、「個人主義的サンジカリスチック・アナキズム」。(賀川豊彦)
- 大杉のすべてはこの箱の中に納められているのだと思えば気が変になるまで胸がワクワクした。(堀保子)
- 酒は少しも飲まない。煙草と甘い物が大好きで、原稿を書くにも、煙草かお菓子かを口にしていなければ承知しない。煙草はことに上等なのが好きで、金があると外国製の高価のをスパリスパリと籐椅子の上で「どうだいこの煙の色は」なんて本当にたわいもなかった。(堀保子)
- 「自分は酒を呑まないから、悪友という者がない。お互いに弱点を許し合った悪友でなければしみじみとした話はできない。どうかしてもう少し酒が飲めるようになりたい」と言って、僕が行くと、無理に少しずつでも酒を飲むことを努めていた。(宮島資夫)
- 彼は常に変化を好んだ。気に入った家でも目につくと、きまって「僕が来月からたばこをやめるからあの家に引越そうじゃないか」といってきかない。いったん言いだすと後へ引けない彼のことだから、私もケンノンだと思いながらも彼の望み通りにする。はたして煙草はやまない。(堀保子)
- 私は彼と別れた後も彼の仕方を恨んでいたかも知れぬが決して憎んではいなかった。彼は彼の道を行くのに対して、私は私の行くべき道を歩んで、どちらが心の満足を得るということを競争してみたいような気がしていた。それが私の生活の全部だと思ってイライラしたこともあった。実際私はそれを張り合いにしていたかもしれない。そして今は肝心の競争の相手がなくなったので、なんだか淋しくなって心細いような気がしてならない。(堀保子)
- 「僕はこの通りさ、僕も訪ねてくる人から『大杉栄の暗殺』を聞かされるけれども、どこかの大杉はやられても、この大杉はかくのごとくに健在さ、アハハハハ」と事もなげに言い放って、香の強い煙草を例のごとくスパスパやっていた。(松下芳男)
- 刑事というものは大杉君を一生苦しめたに相違なかったが、しかしそれと同時に大杉君の生涯を飾った装飾品の一種であったともいえる。(有島生馬)
- 君の文章はいつでも芸術的でないことはなかったようだ。同種類の論客で福田、河上両博士も隠れない名文家だが、前者は匂いを蔵しすぎ、後者は匂いを放ちすぎる。大杉君の文章に芸術的香気の過不足はなかった。(有島生馬)
- 頃日、芥川龍之介が来て言った。君、大杉は相手を、はっきり言えば軍人を、誰よりも尊敬していたために殺されたのだね、と。(久米正雄)
こんな本を読んでいる方におすすめします
- 大江健三郎『日常生活の冒険』1964年
『大杉栄追想』取扱書店(119店)
書 店 名 | 納 品 数 | 電 話 |
札幌弘栄堂書店 パセオ西店 | ★★★ | 011-213-5520 |
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サンブックス浜田山 | ★ | 03-3329-6156 |
模索舎 | ★★★ | 03-3352-3557 |
イレギュラー・リズム・アサイラム | ★★★ | 03-3352-6916 |
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NET21 今野書店 | ★ | 03-3395-4191 |
有隣堂 アトレ目黒店 | ★ | 03-3442-1231 |
NADiff a/p/a/r/t | ★★ | 03-3446-4980 |
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あおい書店 大塚店 | ★ | 03-3949-5400 |
書原 晴海店 | ★ | 03-5144-8236 |
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戸田書店 城北店 | ★ | 054-249-1640 |
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らくだ書店 東郷店 | ★ | 05613-7-1181 |
紀伊國屋書店 名古屋空港店 | 0568-39-3851 | |
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ブックファースト クリスタ長堀店 | 06-6282-2210 | |
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ジュンク堂書店 千日前店 | ★ | 06-6635-5330 |
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ブックスファミリア 外環羽曳野店 | 0729-57-1859 | |
レティシア書房 | ★★ | 075-212-1772 |
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同志社生活協同組合書籍部 今出川店 | ★ | 075-251-4427 |
ジュンク堂書店 京都朝日会館店 | ★★ | 075-253-6460 |
くまざわ書店 四条烏丸店 | ★★ | 075-255-6800 |
ガケ書房 | ★★ | 075-724-0071 |
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ジュンク堂書店 広島駅前店 | ★★★ | 082-568-3000 |
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文榮堂 山口大学前店 | ★ | 0839-23-2319 |
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訂 正
松下芳男氏の没年 1953年⇒1983年
土曜社 doyosha [at] gmail.com