さて、大杉栄『自叙傳』の続報です。
出版専門紙『新文化』の定番コーナー「ウチのイチ押し」で、『自叙傳』が紹介されました。
理論家肌というよりは直情径行型で、ロマンチスト、ストーリーテラーの彼は、生きていればあるいは小説家としても名を成したかもしれない。(『新文化』2011年10月20日)
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ほんとうにそうだったかもしれない、と想像してみることがあります。
事実、大杉栄は17歳のころ、ぼんやりと文学をやろうと考えていました。
ところが、陸軍軍人の父親に反対され、つぎのように諭されます。
「とにかく東京へ出して勉強はさせてやるつもりだが、文学というのだけはもう一度考えなおしてみてくれ。おまえも七、八人の兄弟の惣領なんだからな、医科とか工科とかの将来の確実なものなら、大学へでもやってやるがね。どうも文学じゃ困るな。」(大杉栄著『自叙傳』より)
結局、フランス語をやるという建て前で上京をゆるされた大杉少年は、「なにもかも忘れて夜昼ただ夢中になって」勉強し、東京外国語学校(現・東京外国語大学)に見事合格します。
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大杉栄の『自叙傳』は、「坂の上の雲」の時代を駆け抜けた一少年の青春勉強記として読んでもおもしろいんです。
読書の内容を友だちに話して聞かせる「アウトプット勉強術」や
好きな女の子にそっと猛勉強を誓う「片思い勉強術」、
ライバルと寝食をともにして切磋琢磨する「ルームシェア勉強法」——、
そんな正攻法ばかりでなく、
「伯父さんの威光を借りる法」や「替玉受験術」のような掟破りの裏技も出てきます。
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将来の夢と目前の勉強とのギャップに悩む十代の読者に、もっと読まれてほしいと願うしだいです。