こんにちは。
3月新刊『世界は考える』を昨日、校了しました。
3月5日の発売をめざして、印刷・製本に進んでいます。
1月4日に英文で発表されたエッセイ集ですから、楽しみにしていただいた方には、60日余りお待たせしております。
すごくいい出来になりますから、もう少しお待ちいただければ幸いです。
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さて、納期のほかに、報告とお詫びがございます。
まず一つ。値段を変更しました。
予価は3000円でしたが、実際は1900円になります。
黒田東彦氏が次期日銀総裁と報じられて以来、注文がぐっと増えていまして、思いきって値段を下げることにした次第です。
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もう一つは、お詫びです。24人の執筆者のうち、安倍晋三首相のエッセイだけを収録することができませんでした。
入稿前夜に、ある人物から連絡があり、収録を断念しました。
「ある人物」などというと物騒ですが、今回の安倍論文の英文発表に尽力された方です。
入稿直前でしたから、本には「諸般の事情で収録することができませんでした」とだけ追記しました。
ここでは安倍首相の論文を楽しみに待っていただいた方へ、経緯を詳しくお伝えすることで、少しでもお詫びにかえたいと思います。
自分も整理しきれていないところがありますので、順を追っていきます。
2012年
9月24日 Project Syndicate(プロジェクトシンジケート、プラハ)と弊社で「2012 Year End Series」出版契約書作成。各国の元首級や国際機関トップなど要人たちが年末年始のエッセイを執筆する恒例のシリーズ。この時点では、だれが執筆するか決まっていない。
11月16日 衆議院解散
11月26日 上記契約を取り交わし
12月11日 プラハから「2012 Year End Series」の執筆陣24名のラインナップが届く。目立つところではビル・ゲイツ氏、マイケル・サンデル教授、ナシーム・タレブ氏。日本からは安倍晋三氏(当時は元日本国首相という肩書き)とアジア開発銀行の黒田東彦総裁の2名。
12月16日 第46回衆議院議員総選挙で自民党が大勝
12月19日 自民党総裁室とファーストコンタクト。その後、総裁室から安倍晋三事務所に本件引き継ぎ。
12月25日 安倍氏が第96代内閣総理大臣に就任
2013年
1月4日 プロジェクトシンジケートが安倍論文を含む「2012 Year End Series」を世界同時発表。安倍晋三事務所とファーストコンタクト。
1月16日 東京新聞が安倍論文の「セキュリティ・ダイヤモンド構想」を大きく報じる
2月4日 安倍晋三事務所から「(日本語翻訳出版を)お断りする」との連絡。あきらめきれず、手を尽くす。ある人物へのコンタクトをプラハに依頼し、日本語翻訳のチェックを受けることに。
2月12日 プラハから翻訳チェックを通ったとの連絡。「2点ほど但し書きが必要だが日本語版出版は OK」のこと。
2月13日 ある人物と国内でファーストコンタクト。プラハ経由だけでなく、直に確認をとっておきたいと考える。
2月20日 ある人物から「日本語への翻訳 NG」の連絡。入稿が翌日に迫るなか、やむなく収録を断念する。
2月21日 安倍論文を除いて『世界は考える』入稿
というような次第です。
そもそもプロジェクトシンジケートには、言葉の壁を越えて、また富の多寡にしばられることなく、未来を形づくるアイデアを広く共有するという理念があります。
プロジェクトシンジケートで発表される論文は、たちまち英・中・仏・露・西・アラビア語など各国語に翻訳され、広く読まれるかたちを整えます。また、貧富の差が知識へのアクセスをさまたげるものであってはならないという考えのもと、先進国の有力紙のみならず、後進国の報道機関には無償もしくは安価に論文を配信します。
カール・ポパーの「開かれた社会」の理念に照らせば、ジョージ・ソロス氏がこのプロジェクトに出資するのもよくわかる気がします。
プロジェクトシンジケートで発表し、各国語に翻訳され、広く世界で読まれているにもかかわらず、日本語だけ例外で出版しないのは理屈に合いません。出版を予告しながら、直前で断念した自分を自戒しています。
とはいうものの、もっと単純に考えるなら、出版社は著者がなくては成り立ちません。
渋る著者を熱心に口説くことはありますが、最後は著者が快く出版をゆるしてくれることが必要です。
今回は、著者が望まない文章を出さないという単純な規範にしたがうことにしました。その間、山のように思惑や算段をもちました。コミュニケーションが足りなかったのも確かです。そんなことも含めて、やはり「諸般の事情」ということになるでしょうか。
楽しみにしてくださった方には、残念な思いをさせてしまいますが、どうかご海容いただければ幸いです。