勤務中にラジオ

おはようございます。

 

昨日は、土曜社の葉山保養所も一日雨でした。

 

雨をいいことに、ラジオで英国国営放送 BBC のニュースを聴きながら、ずっと室内で作業や読書をしてすごしました。

 

勤務中にラジオをかけていられる立場というのは、出版業界に入って以来、一つの成功像として心にありました。

 

少し回想をおゆるしください。

出版業界に入りたての頃のことです。

国分寺の東京経済大学での打ち合わせの行き帰りに、ときどき立ち寄る古書店がありました。

 

出版業というのは仕事の輪郭があいまいなもので、街の書店や図書館に通うことも仕事になりえます。

 

「渋谷 NR(ノーリターン)」と事務所の出先表に書いてあれば、すなわち「渋谷で書店をまわって、得意先と懇親を深めて帰宅する」と見なされます。

 

筆者にとって2社目の出版社では、レコード会社を兼ねていたこともあり、レコード店に通うことも、コンサートや映画の試写会に出ることも仕事の一つでした。

 

一日の作業をおえて帰宅するときも、「お先に失礼します」とはいいません。

代わりに「出ます」と言い残すのみ。

 

「帰る」ではなく「出る」――。

 

このことばの違いは、あんがい大きいようでした。

自分の拠点は、あくまで事務所にあるという意味がそこに含まれるのですから。

こうして出版業界で働きながら、どんどん自由が広がっていくわけですが、なぜか古書店に出入りすることだけは、ずっと後ろめたさが拭えませんでした。

 

理由を考えるに、新刊を飯のたねにしながら、新刊よりも古書のほうをおもしろく感じてしまう自分に対する危険の感覚なのかもしれません。

 

もっと下世話なところでいうと、古書店では自社商品を横流しすることができてしまうので、当然の警戒心が働いていたのかもしれません。

さて、そっと通っていた国分寺の古書店では、いつも店主が何か作業をしながら、NHK ラジオのロシア語講座を聴いていました。

 

作業のかたわら、自分のいいように語学の勉強も進む――。

それが当時、どれほどうらやましかったことか。

 

会社員だった頃は、早出をして、誰もいない朝の事務所でラジオを聴きながら作業をはかどらせたものでした。

 

土曜社では、日中ずっとラジオをかけていることができます。

 

とりたてて華々しいこともない日々ですが、望んだ方角に向かっているのかもしれないと、ふりかえっています。